僕たちの道標



懐かしい地に戻ってきた。

始まりの場所。色も匂いも何もかも全て。


本降りになる前に自宅の扉の前まで駆け寄り、鍵を開いて少女らを招いた。変わらず警戒しているようだがそれでも突き放して別の方向へと歩き出してしまわなかっただけマシか。

扉を開くと玄関から窺えるリビングにも電気がついていなかった。気を利かせたピカチュウが飛んだり跳ねたりと流石は慣れた様子で電気を点けていく。最後にテーブルの上に着地すると首を傾げるピカチュウの頭をそっと撫でて。

「二階に部屋があるからそこに」

言い切ってしまわぬ内に緑色の髪の少女がアイコンタクトをして水色の髪の少女と共に青年を二階へと運び始めた。階段を転げ落ちてしまわないか不安だが変にじろじろと目を見張るより何か簡易的な食事を用意した方が良さそうだ。

「ピッカ?」

台所に立つとピカチュウがついてきた。

迷ったがレッドは腰に取り付けていたボールを取り外すとピカチュウに向ける。赤の光がピカチュウに一線伸びると包み込んで呑み込んだ。此方から手を出すような意思はないと少しでも信用してもらうためにはやむを得ない。

さて。どうしようか。幾ら気にかけたところで明日にはここを立っているのかも知らないのに信用云々と心配が拭い去れない。初めの少女はともかく次女と思しき緑色の髪の少女はやけに警戒を示していたし長男らしい男の子も何故、あそこまで弱っていたのか。炎ポケモンが雨に打たれたからといって少しばかり大袈裟すぎやしないか。深く踏み込むべきではないのに疑問ばかりが絶えず頭の中に浮かんでくる。……
 
 
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