僕たちの道標
胸がいっぱいになる。苦しいくらいに。
幸福に満たされていくのが分かる。
ああ。そうか。
俺が忘れていたのはこの感覚だったんだ。
「──!」
モンスターボールの中から飛び出してきたのはピカチュウだった。雨の日も風の日も、深手を負っても倒れまいと踏ん張って必ず付いてきてくれた俺の最初のパートナー。
「ピカピ」
レッドは抱き上げる。
「お前もこんな気持ちだったんだね」
「ピカチュ」
耳を垂れて笑う。
そうだよ、と答えるように。
「ありがとう──」
強い風が吹き抜けた。
吹き飛ばされて地面に落ちた帽子を拾い上げたのは三人の内の一人ではなく。いつからそこで一部始終を見守っていたのやら幼馴染みのその人は手にした帽子を返すべく歩み寄る。
「ほらよ」
わざとなのか否か深く被せられる帽子に思わず身動ぐとピカチュウが腕の中から脱した。
「で。どうするんだよ」
はっきりしてやれとばかりにしゃくるその人にレッドは振り返る。注ぐ視線にほんの少しだけくすぐったいような感覚を覚えながら。
「うん」
肩を竦めて。柔らかく笑う。
「俺でよければ」
ぱっと顔を見合わせた三人は小さく吹き出すと向き直り口を揃えて返す。
「お前じゃなきゃ駄目なんだっつうの」
「貴方でないと認められないわ」
「そうだそうだ!」
「あははっ、……ありがとう」