僕たちの道標



……朝食の匂い。

「おはよう」

あら、と母親は目を丸くした。

「可愛いわねえ」

癖のついた箇所をゴムで軽く括ったというだけなのだが母親からは好評だった。これにはゼニガメもすっかり気を良くした様子でまだ寝ぼけ眼のレッドの腕を引き寄せると笑いながら。

「結んでもらったの!」

……妹ができたみたいだ。

「はやく朝食を済ませちゃいなさい」
「はぁーい!」


本当に。


「いってきまーす!」

快活な声は気分が良いが相変わらず天気というものは空気が読めるんだか読めないんだか曇り模様である。彼女には説明していないが確かにこれから病院へ赴く理由は単にお見舞いだけの話に留まらない。一時的なもので構わないから手術を受けるためにも自分をトレーナーとして受け入れてほしいのだと、人間に対して信用を失った彼らに話を持ちかけに行くのだ。

「ふふ」

そんな人の気など知る由もなくゼニガメはよくわからない歌を口ずさんでいる。

「楽しみだねぇ」

……結果次第である。

「あはは」

苦笑いを浮かべて一呼吸。

……頑張ろう。
 
 
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