僕たちの道標



はたと。

「……家に」

ゴールドは腕を組む。

「俺としてはまさか家出先がシロガネ山の山奥だとは思いませんでしたけど。でも親の気持ち考えるなら連絡のひとつくらいするもんです。確かに頼りがないのは元気な証拠とか言いますけどない方がいいなんて考え方だけは」

話の最中気付いてリュックサックを下ろし取り出したのは携帯端末である。ポケモンに充電はさせてもらっていたがまさかと思いながら画面左上を確認すれば見事アンテナゼロ本の圏外。

「……まさか」

それを見ていたゴールドは青ざめる。

「自分が各地方で有名なくらい行方不明としてニュースに取り上げられたりしていたこと自体気付いてなかったとか」

冷や汗。

「今すぐ帰ってください!」
「わあああっ雪山だから大声は!」


雪崩のような出来事だった。


まさか自分が何週間なんて可愛いものではなくもう何ヶ月も行方不明扱いになっているものと知らず、その上一部ではシロガネ山には強豪と謳われた伝説のトレーナーの幽霊が出るとまで噂されていたものだとはゴールドのあの反応も流石に頷ける。──小さく息を吐いてレッドはマサラタウンまでの帰路を歩いていた。

電波が入った途端に凄まじい勢いで着信履歴とメール受信箱が百も二百も埋められていく様はある種ホラー映画のようだった。隣で見守られながら母親に長いお叱りを受けるという大恥をかかされ強豪トレーナーの肩書きが泣く。……

グリーンはどうしているかな。トキワシティのジムリーダーをやっていると聞いて気まずくて躊躇ってしまったけどこの躊躇いはもっと別に理由がある。お互いを高め合うライバルなんて少年漫画のような仲ならどんなによかったか。

「はぁ」

足取りが重くなる。

「ピカチュ」

足下を歩いていたピカチュウが逸早く気配を察知して鳴き声で知らせると其方を向いた。怪訝そうに目を向けてみれば確かに茂みが不自然に動いていてレッドは目の色を変える。
 
 
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