僕たちの道標



「あらあら」

笑う。

「そんなに泣かないの」
「泣いてなんか──」

会話に夢中で少女が聞き耳を立てていたことに気付かなかった。介入することなく目を細めると物音を立てずにその場を後にする。

心情の変化を感じながら。……


「んん」

遠く目覚まし時計の音を聞いてゆっくりと夢の世界から引き戻された。手繰り寄せた時計を一度黙らせてから見れば時刻は朝の八時を示している。レッドは眠たそうに欠伸を洩らして。

「起きたんだねぇ」

振り向けば──ゼニガメの少女がいた。

「……おはよう」
「おはようございまーす!」

陽気な声。

「フシギソウは?」
「ねえねなら先に病院いっちゃったよ。僕たち起きるのが遅いから待てないって」

……苦笑いしか返せない。

「ほら。はやくはやく」
「ゼニガメ」

腕引く彼女をじっと見つめて。

「髪、括ろうか」
「へっ?」

彼女の髪の長さはミディアム程で放っておいても大して邪魔にはならないだろうが癖のついた髪だけが何となく目立っていた。

「女の子なんだから」

柔らかく笑いかけながら言うとゼニガメは頬をほんの少し染めて。

「……うん!」
 
 
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