僕たちの道標



拍子抜けするような回答だった。

「レッド」

優しい声で紡ぐ。

「頼りなさい」

胸の奥で熱いものが広がるのを感じた。

「でも」

レッドは縮こまる。

「傷付けるかもしれない」
「どうして?」
「俺のトレーナーとしての考え方は」

頭を垂れる。

「あの子達を傷付ける……」
「だってそれはもう仕方ないことよ」

きょとんと顔を上げた。

「あのねレッド」

母親は語る。

「人は簡単に本質を変えられないわ。誰だって同じ。本質を隠そうなんて振る舞った方が余計傷付けちゃうわよ。だから貴方は自信を持ってその本質を生かしなさい。そしてそれで誰かを傷付けたくないなら見方を変えなさい」

先程の光景を思い出す。


……ああ。そうか。

だからあの人はあんなことを言ったのだ。


自分はずっと目の前の勝負に勝つための"ポケモントレーナー"でしかなかった。盲目に突き進む内に見失っていたのだ。

トレーナーでも何でもない人としての心を。


「あなたはまだ子供なんだから」

敵わない。かなわない。

「甘えたっていいの」

堪えていたものが溢れだす。

「たくさん学んで成長しなさい」


ああ。……ああ。


「……ありがとう……母さん……」


親にはやっぱり敵わないなあ──
 
 
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