僕たちの道標
瞼を閉ざして。……開く。
「母さん」
レッドが死角となっていた壁の後ろから現れると母親はもちろんゼニガメも驚いていた。
「うわわ」
「話があるんだ」
用件を告げると母親は目を細めた。
……時計の音が響く。
ゼニガメには断って自室のある二階へ上がってもらった。居間に残された母親は温かい緑茶の注がれた湯呑みを口にしながら向かいの息子が口を開くのを静かに待っている。
「その」
レッドは膝の上でそっと拳を握り締める。
「俺が生まれた時……大変だった?」
母親は湯呑みを置いて答える。
「もちろん」
小さく笑みをこぼして。
「男の子だもの。何を考えてるか分からないし──今も昔もずぅっとたいへん」
放浪癖と話すと聞こえが悪いが父親は仕送りをしながら様々な地方を渡り歩く人で。ふと物心ついた時から親といえば母親が全てだった。
連絡もないまま姿を消した時。
……大変だったと思う。
「なぁに?」
母親はくすくすと笑っている。
「俺」
レッドは意を決し顔を上げて向き合う。
「新しい家族を迎え入れようと思う」