僕たちの道標
人を殺しちゃったんだよ。
「僕じゃないよ!」
ぱっと振り向いた少女は否定した。
「兄のトレーナーは研究者の端くれだったの。それでいて欲深い人だった。勝負に勝ればそれだけで賞金の得られる世界だもの」
初めの少女より幾らか大人びた少女は語る。
「だから──自分の才能を過信して規定以上のドーピングと調合した薬の投与を繰り返した。その結果は貴方も見たでしょう」
目を伏せる。
「兄の意思ではどうにもならなかった。殺したかったわけじゃないのよ」
夕暮れの道をゆっくりと歩く。
「風の噂で私たちの事情を知った兄は私たちをすぐに探し当てた。それからはずっと雨の日も風の日も私たちを守ってくれたわ」
数歩先を歩いたら先で。
「ねえ」
フシギソウは振り返った。
「貴方もトレーナーなんでしょう?」
どくん。
「あ」
何か言わなきゃ。
「俺は」
応えなきゃ。
「レッド」
ゼニガメはきょとんと首を傾げた。
「──どうして僕たちを庇おうとするの?」