僕たちの道標



無意識の内に膝の上で拳を握った。

「過剰な薬投与。必要以上のドーピング。本来なら彼はまだリザードに進化したばかりくらいのレベルなのに投与された薬の影響で無理矢理進化させられている。──これはね、違反行為なんてものじゃないれっきとした犯罪ですよ」

ざわつく。

「日常生活もまともに送れないほどに彼の体の内側を燃え上がるような熱が蝕んでいる。今は薬で眠らせているので安心ですが」


想像はしていたが。

あまりにも。えぐい話だった。


薬? ドーピング?

俺だってそんなことしないのに。それとも──自分がもしも強さに拘り続けていたら手持ちのポケモン達に強要させていたのかもしれないというのか。思考がぐちゃぐちゃになる。


「どうされますか?」

はっと現実に引き戻される。

「手術の話です」

医師の男は繰り返す。

「あ」

レッドは言葉を迷わせて。

「……少し……考えさせてください……」


それはきっと。

俺が決めることじゃないんだ。


「レッド」

診察室から出てくると不安そうな顔をしてゼニガメが駆け寄ってきた。

「怪我は?」
「僕は平気なんだ」

手を後ろに組んで肩を竦めて笑う。

「ねえねが守ってくれたから」

ずき、と。内側で軋む。

だってあるはずがないじゃないか。


……兄弟なのに。

傷付けたり傷付いたりするなんてのは。
 
 
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