僕たちの道標
……冷たい風が体を打つ。
閉ざしていた瞼をそっと開いて視界いっぱいの白い景色を迎える。遠い記憶に今更囚われるだなんてそれでは何故ここまで来たのか。小さく息を吐いて顔を上げれば手持ち最後の砦だったポケモンがぐるぐると目を回しながら雪の上に横たわっていた。そこで漸く現実に引き戻され然れど呆気にとられていると向かい合っていた一人の少年は帽子の鍔を引き下ろして敬礼。
「ありがとうございました!」
あ。……負けた。
「こちらこそ」
「えっ」
少年は慌てて顔を上げる。
「生きてるううぅう!?」
なんとまあ。
「さっきはすみませんでした……」
申し訳なさそうに頭を下げて謝る少年の名前はゴールド──ジョウト地方ワカバタウン出身のトレーナーらしい。気にしなくていいよ、と苦笑いを浮かべて応対するのはレッド。
「だって、レッドさんですよ」
恐れ多いといった態度であるのも確かに無理もない話でこの頃のレッドといえばあらゆる地方ポケモンリーグを制覇し尽くした強豪と世間に知れ渡っていたのだ。ひと度ボールを構えれば勝ち目はなく如何に相性有利であれ的確なポケモンへの指示の元なす術もなく敗北を余儀なくされるなどと大袈裟に恐れられたものである。
「クリスのヤツ……ッ」
「お友達?」
「腐れ縁みたいなもんですよ」
とっちめてやると闘志を燃やすゴールドに何故だか懐かしい感覚を覚える。くだらないことでグリーンと喧嘩をしたりバトルをしたりそれで結果がどうあれ肩を並べて叱られたり結局どうでもよくなって笑い合ったりなんかして。
……変わったよな。お前。
「レッドさん?」
怪訝そうに覗き込む顔にぎくりと肩を跳ねる。
「はは。なんでもないよ」
「そうじゃなくて」
ゴールドは気まずそうに言葉を続ける。
「……その。家に帰らないんですか」