僕たちの道標
簡単な検診を行なうべく台の上に移動していたピカチュウは懐かしい匂いに安心感を覚えたのやらいつの間にか丸くなり眠っていた。
「急に呼び出してしまってすまんかったな」
レッドは振り返る。
「実はな──」
今まで。どこで何をしていたのかとか。物事の経緯だとか詳しい事情。ひと雫まで残さず搾り取るように問い質されることがなかったというのは救いだった。他愛もない話を挟みながら、用件として差し出されたのは懐かしい思い出の蘇る隣町──トキワシティまでの配達。
断る理由もなくこれを快く承諾。記憶に忠実に朗らかに笑うオーキド博士を見ていると自然と表情が綻びる。そうして最後二言三言交わしてピカチュウを起こしてその場から離れる。
「──レッド君!」
研究所を出ようとした、その時だった。
「すぐに戻ってきますか?」
「あまり時間はかからないと思うよ」
「──後で、私のパーティを見てください!」
小さく目を開いた。
「レッド君に憧れて勉強していたのよね」
「わ、わ!」
研究員の女性が茶化すとブルーは顔を真っ赤にして分かりやすく慌てた。
「秘密って言ったじゃないですか!」
ざわざわと。笑う声が耳にまとわりつく。
「うん」
扉を押し開きながら笑う。
「後でね」