僕たちの道標
どうやら梅雨の時期真っ只中に帰ってきてしまったらしい自分はこの雨の中では何処を出歩くようなつもりにもなれず母親が趣味で購入したグッズを整理することだけに徹していた。ともなればいつの間にか陽は落ちて一旦は町の空を覆っていた雲も過ぎたのか夕焼けの陽が窓から射し込んで。レッドは手を止める。
「夕飯できたわよー」
「はーい」
止んでよかった。
そんなことを思いながら。……
「そうそう」
テレビに目を奪われながら食事の手が止まっていると。
「お隣のグリーン君。覚えてる?」
魚の切り身を箸で摘んで口に運ぶ。
「覚えてるよ」
「トキワシティのジムリーダーになったのよ」
視線は変わらずテレビに向けられたまま。
「一度くらい挨拶しなさい」
淡々と運ぶ。
「うん。そうするよ」
会いたくない相手ってわけじゃない。
互いの腕を競い合い、励みにしながら時として許され難い悪が立ちはだかれば共に立ち向かう──良きライバルと呼ぶに相応しい人だった。