僕たちの道標
リビングに戻ってくると一斉に二人から視線を投げられた。ぎくりとして足が竦んでしまうも目を逸らして歩みを進める。
「妙な気を起こしたりしなかっただろうな」
「安心してちょうだい」
フシギソウは笑う。
「彼は驚くほど紳士だったわ」
首に掛けたタオルでまだ濡れた髪を拭う彼女にそうか、とリザードンは声を漏らす。
「僕たちもお風呂入ろうよー」
「引っ張るな。お前だけ入ればいいだろ」
「にいにってばほんと」
遮るようにチャイムの音が響いた。先程までの穏やかな空気は何処へやら、一瞬にして静寂に染まり三人の視線は揃って扉へと注がれる。
「見てくるよ」
まるで犯罪者を匿っているかのような感覚に囚われてしまいながら扉へ向かい覗き窓から扉の向こう側を覗いてみる。
「……!」
レッドは小さく目を開いた。
「さっきの人たちだ」
リザードンが思わず立ち上がると怯えるように服の裾を引くゼニガメを抱き寄せた。
「お前まさか」
「あの人は怪しい動きを見せなかったわ」
「僕もそう思う」
そんなやり取りを背に目を凝らして見ていると白衣の男の手元に機械のようなものが窺えた。
「ダウジングマシン……?」
声に出して言ってみたが何故それを手に此処をもう一度訪れたのか分からなかった。だがしかし彼らが理由あってトレーナーの手元を離れた非公認の研究所出身のポケモンである点を思い出してハッとする。あくまで可能性にしか過ぎないが何かチップのようなものを体の何処かに埋め込まれているのではないだろうか、と。
「応対する」
リザードンは目を開く。
「な、」
「君たちは裏口から外に逃げて」
台所の直ぐ隣にある裏庭へ続く扉。
「待ち伏せさせてるんじゃないだろうな」
「にいに」
ゼニガメが裾を引く。
「……とにかく行きましょう」