僕たちの道標
沸き立つ観客席。歓声、拍手喝采。
受け渡される杯の重量感と冷たく伝わる温度。
まるで。
雨のようだと思った。
勝負の結果に不満を抱いて荒ぶる声は雷の如く煩わしくだけど曇天は退かない。雨音は止まず頭の奥にまで響き続ける。泥水が足下を跳ねて強風が妨げようとただひたすらに前へ前へ。
勝利を手にするために。
幼い頃からポケモンが好きだった。出掛け先にさえ図鑑や書物を持ち込んで読み耽りいつか旅立つ日を夢見る日々。見兼ねた母が博士に申し込み研究所の研究員と学びを得るためバトルを行なったのが全ての始まり。圧倒的な知識力と指揮能力。如何に弱小と嘲笑われたポケモンであれレベル概念を無視して勝利へ繋ぐ。
誰も真似できない才能に周りの大人たちは歓喜して送り出した。その一方で自分も勝利を得ることに只ならぬ悦というものを感じていた。
ただ単純に子供の感性で。
刺激が強すぎたものだと気付かずに。
「お前は、確かに強くなった」
幼馴染みの声が響く。
「でもそれは」
響く。
「"本当の強さじゃない"」