僕たちの道標
シャワーの音なのか。雨の音なのか。
判別もつかないまま壁に寄りかかり窓の外へと視線を預ける。雨は容赦なく地面を打ち付けてせっかくこの町に戻ってきたというのにまるで歓迎されている気がしない。それでも確か一説によれば雨は神様の歓迎の印だと聞いたが曇り空を背景に笑ってみせろなんて無茶な話。
「ねえ」
いつの間にかシャワーの音は止まっていた。
「タオルを貸してちょうだい」
側のランドリーワゴンから適当な一枚を取って渡そうと振り返ったその時ぎょっとした。透き通るような白磁の肌。毛先から滴り落ちる雫。下衆な男であれば魅力的な体つきに舌舐めずりして飛びかかる勢いだろうがレッドはぼうっと見つめていた。遅れてタオルを手渡せばフシギソウは詰まらなそうに息を吐いて。
「貴方って欲がないのね。それともまだもっと別のものに向けられているのかしら」
そうして。伏せ目がちにゆったりとした動作で髪を拭う彼女は末妹であるゼニガメと比べても随分と大人びて見えた。
「ね」
雨の音を遠く感じている間に。
「私って綺麗?」
何処か聞いたことのあるフレーズだな、と。
冷静に思う自分がいた。
「、うん」
少女は薄く笑みを浮かべて離れる。
「そうかしら」
レッドは静かに見つめていた。
「私。生まれた時からフシギソウなのよ」
……え?
「おかしな話でしょう」
此方の気持ちに反して少女はくすくすと笑う。