僕たちの道標
布巾で水滴を拭った食器を重ねていく。
「レッドって」
ゼニガメは静寂を解くように。
「凄いトレーナーだったんだね」
「あはは。そうかな」
「お部屋の表彰状とかトロフィーとか見たけど短期間でジムやリーグを制覇してるし」
ひと呼吸置いて。
「いいなあ」
笑う。
「僕も大会とか出たかったなあ」
、はたと手を止めた。
「出れないの?」
「うーん」
ゼニガメは変わらぬ態度で。
「トレーナーに捨てられちゃったからねえ」
……え?
「僕、進化ができないんだ」
影を落として皿を置く。
「レベルは充分に達しているはずなのに。何度戦っても周りのポケモンが進化しても僕だけは進化できなくて。周りが変だってからかう内に多分嫌気が差しちゃったのかな。子供だったし仕方ないとは思うんだけど」
ポケモンって進化しないと弱いよね。
「あ」
重なる。
「レッドもそう思う?」
胸の奥がざわつく。
「無理して庇わなくてもいいよ」
ゼニガメは肩を竦めて笑った。
「トレーナーだもんね」