僕たちの道標
強きは正義だ。弱きの味方だ。
それが。
呪いの始まりだった。
最初は子供ながらに純粋だったんだ。それぞれ個性にあった育成法で相性を考えながら的確な指示を出せば勝利という恩恵を得られる。
褒められる。感謝される。
喜んでもらえる。
それが。だんだんと拗れて、拗れて。
ポケモンを数値で見るようになっていった。無感情に淡々と絶やさずにいた情熱の炎は尽きて戦略が通じなければ弱者と見做し、次の育成論へと時間を費やす。共に過ごした時間さえ氷のように溶けて二度と触れない、振り返らない。
そんなやり方でも誰も責めることなく自分自身正しいと思っていたのだ。ポケモンだって誰も背くことなく此方の指示に忠実に従い費やした時間に見合った結果を出してくれる。
そうだ。大丈夫。間違ってなんかいない。
だってこれは紛うことなく正義で。
皆のためなんだから。
「違う」
はっと現実に引き戻される。無意識の中でそれでも手だけは動かしていたらしく最後の一枚が付着した泡を洗い流されるのを待っていた。
「お手伝いしようか?」
気が抜けていたばかりにただの良心的な声掛けでさえ肩を跳ねて驚いてしまう。
「う、うん」
レッドは誤魔化すように肩を竦めて笑う。
「ありがとう」