僕たちの道標
……いい食べっぷりだなあ。
分かってはいたものの数日かそれ以上まともな食事を摂っていなかったのであろう三人の消化速度の早いこと早いこと──次女のフシギソウだけは控えめに振る舞っていたがそれでも昨晩作ったスープを全て平らげてしまった。炊いていたご飯も焼いたパンも皆残らず完食とは食の神様も見ていて気持ちがよかっただろうな。
「ごちそうさま!」
ゼニガメは手を合わせてにっこりと。
「すっごく美味しかったよ!」
断固として他二人が警戒を解かない一方で彼女だけは愛想よく接してくれた。レッドは微笑を浮かべて空いた皿を重ねながら立ち上がる。
「レッドだよ」
「赤くないのに?」
「はは。よく言われるよ」
フシギソウは湯呑みを置いて。
「何処かで聞いたことのある名前だと思った。まさか貴方が生ける伝説とまで謳われた凄腕のポケモントレーナーだったなんて」
レッドは苦笑を浮かべる。
「大袈裟だなぁ」
「褒めてなんかいないわよ」
冷たく。
「各所に置かれたジムやポケモンリーグに挑戦する都度その人の手持ちのパーティは異なったものだと聞くわ。相手によって戦略を変えると言ってしまえば聞こえはいいけれど勝利へ繋ぐその強さにのみ拘り弱きを見下してきたという噂。……本当なのかしら」
心臓の鼓動が打つ。
「レッド?」
口の中が乾く感じがする。
「か、片付けてくるね」
過去に吐き捨てた言葉の数々が渦を巻く。
「どうしたのかなぁ」
不思議そうに見送る少女の傍ら。
鋭く見据える──青年の視線には気付かずに。