僕たちの道標
ぱたん。扉を閉めて即座に鍵とチェーンを掛けながら覗き穴から男の動向を探る。男はその後別の方向から駆けつけてきた男と何やら話した後でその場を離れた。レッドは完全に見送ってから小さく息を吐いて二階へと向かう。
明らかに彼らのことを指していた。メヌエルは確かにこのマサラタウンからそう離れていないはずだが、それにしたってこうも躍起になって探し回るものなのか? 推測が正しければ彼らは一度トレーナーに受け渡したポケモンという話になるのだろうし余程の理由がなければ。
「……あ」
視界に飛び込んだのは上体を起こして窓の外を見つめる青年。ベッドの縁には遅くまで様子を見守っていたのであろう少女二人が今は静かな寝息を立てて眠ってしまっている。
「目が覚めたんだね」
青年はゆっくりと振り向く。
「なんで追い返した」
「誰を探しているとまでは聞いてこなかった」
「理由にならない。気付いてただろ」
空色の双眸には警戒の色が宿る。
「答えろ」
厳しく見据える。
「分からない」
暫くして返ってきたのは。
「……は」
「でも正しい判断だったと思う」
青年は吹き出した。
「くく……」
傍らの少女たちを起こさないように笑う声より雨の音の方がよく響いていて。青年はひと頻り笑った後でもう一度煽るように問いかける。
「……人を殺していたのだとしても?」