零の世界
「……!」
と。小さく目を開いた。
正面の壁に指先がほんの少し触れた途端中央から光の波紋が三回に渡り打たれて五芒星とはまた異なる変わった魔方陣が浮かび上がり、やがて正面にしていた壁ごと消え失せたのだ。
……何だったというのだろう。気を取り直して一歩を踏み出し中を覗き込む。
気配はない。何か生き物がいたところでこの力の前では無力だろうが何度も繰り返している通りあまりこの力を使いたくない。無論呑まれるつもりも……
建物の内部へ足を踏み入れるとまたもや変化が起こった。入り口から奥にかけてあみだくじのように、壁と床を鮮やかな黄緑色の光が走ったかと思うと半透明で且つ薄水色のウィンドウが幾つも浮かび上がり、それに文字が打たれて失せると今度は道を作るようにして紅い光が手前から奥にかけて二つ並べて点々と足下を照らし出したのだ。
実に凝った仕掛けである。妙だな、とは疑ぐりつつも明かりを頼りに奥へ進む。
「……何だ……?」
歩く都度、側にはウィンドウが繰り返し浮かび上がった。それが、通り過ぎると消えるので疑問を覚えて足を止める。
ウィンドウに打ち出される文字は日本語でもなければ英語でもなく顔を顰めた。何処かの書物で見かけたこともなければ他の誰かから教わったことも。
なのに。
「……何だよ、これ……」