零の世界



踏み鳴らす。靴音が暗闇に溶ける。

「兄さん」

軋む扉が閉まる。

「揃ったよ」

液体の揺蕩う円筒の中で眠る奇跡の生命体。

全てのものを無に帰す。極彩色の羽根を広げて零にする。創造と破壊の力を与えられて生み出された新世界創造計画用人型禁忌兵器。……

「早かったんだな」
「絶対に入隊拒否するかと思っていたのにね。ま、戦士の性ってヤツ?」

くすくすと笑みをこぼす少年の側で双子の兄である少年もまた内心ほくそ笑んでいた。


──今。全ての駒が手の内にある。


「後はこいつ次第だな」

息をついて円筒を見上げる。

「十年だ」

成果を噛み締めるように。

「十年もかかった。もうすぐ」

呟く。

「俺たちの望んだ世界が手に入る」


全てはここから始まった。


閉ざされた世界の中で綴られた物語。

僕たち俺たちの零。


「お目覚めの時間だよ」


さあ。始めよう。

始まりと終わりの物語を。



end.
 
 
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