零の世界



白磁の肌。揺蕩う透明の液体に釣られるようにして淡い紫色の髪が揺れる。十年前こそ胸の中央に核と思しき赤紫色の玉を抱えていたが懸念していたテクスチャマッピングというものも無事終えて今は正しく内側に仕舞われている。

「……兄さん」

愛おしそうに寄り添って目を細める。

「今。すごく幸せなんだ」

今日という日を迎えるために幾度となく苦難を乗り越えてきた。時として意見を違えて口論に発展することがあろうとそれでも最後には必ず互いを認めて納得する形に収めた。

その完成形が──今ここに。

「兄さん?」


あの時みたいな思いはもうしない。


「どうしたの?」

秘めた想いを胸に誓う。

「言葉にならなかっただけさ」

優しく髪を触れて愛でる。

「俺も。幸せだよ」

もう二度と大切なものは失わせない。


……今度こそ。

この手で。この世界を。
 
 
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