零の世界
嗤う双子を彼らは咎めない。
かの計画の為に生み出された忠実なる僕。
──偽物集団『ダークシャドウ』。
「報告は以上となります」
少年は立ち上がる。
「あれ」
クレイジーは惚けたように。
「お前また背が伸びたんじゃない?」
今から十年前。
ダークピカチュウの名を与えられたその少年は仮称"Xー000"の実験の為に連れ攫われたクレシスの息子だったのである。であれば当然人間である彼はダークシャドウと異なり食事や睡眠を必要とするばかりでなく年々声質も変化すれば背丈だって大きくなるわけだが──
「? そんなはずは」
少年は事実を知る由もない。
十年前に"Xー000"から受けた波動の影響により幼い頃の記憶も何も真っ新な零の状態とされてしまっているのである。とはいえその時の禁忌兵器は実験段階に過ぎず消失したはずの記憶も突けば呼び起こされる可能性だって。
「嘘だと思うのなら」
「クレイジー様」
言葉を遮ったのはダークウルフである。
「誠に申し訳ありませんが、我々は亜空爆弾の設置作業に戻らなければなりません」
頭を垂れたまま。
「お戯れはこの辺りに」
「紛い物の分際で自分の意思で意見するなんて随分と偉くなったじゃない?」
刹那。
「──っ!」
良くない空気が肌を触れてダークウルフは反射的に焦りを滲ませ顔を上げた。
「今回は見逃してあげる」
クレイジーはいつものように笑いかける。
「次は気をつけてね?」