零の世界
「何だよ」
「お前こそ」
妙な間が息苦しい。
「その」
耐えきれず口を開いたのは弟の方だった。
「後悔してないかなって」
唯の思いつきも同然である提案にここまで付き合ってくれるものだとは思いもよらなかった。投げ出してしまいたいという弱音を吐くつもりはないがこの作戦が本格的に始動してしまえば本当の意味で後戻りなど出来ないだろう。
「……もし」
気まずそうに紡ぐ。
「兄さんが望むのなら」
言いかけて。
「たっ」
額を指で軽く弾かれた。
「お前は馬鹿だな」
クレイジーは思わず膨れっ面になる。
「ぼ、僕は兄さんの為を思って」
「引き返すつもりはない」
マスターは答えた。
「この世界は確かに穢れている。愚かな人間が猛威を振るい今も世の中を腐らせている」
欲望に駆られた人間たちのどれだけ醜く傲慢で愚かなことだっただろう。幾度となくその目にしては氷のように冷たく見下した。
「それでも」
紡ぐ。
「俺はこの世界を愛している」
クレイジーは黙っていた。
「積み重ねてきた罪と向き合い正していこうという彼らの意思も壊れてしまえと嘆き変貌したお前の行為も全て等しく正義なのだろう」
目を細める。
「どれだけ否定されようと構わない。この愛は正義であり本物だ。俺は必ず兵器を完成させてこの世界に宣戦布告をする」
内に秘めた意思は固く。
「そっか」
安心したように肩を竦める。
「ついてきてくれるか?」
「もちろん」
指を絡めて繋ぐ。
「……どこまでも」