零の世界
……やれやれ。
他より奥行きのある仄暗い部屋の中。全体的な管理を一人任されていたダークリンクは室内を見渡して短く息をつく。
ごぽごぽと泡の立ち昇る水色の液体が浸された円筒が壁に沿ってずらりと。 四年前──当時と異なるのはその円筒の中に見覚えのある姿形をした人型生命体が自らの体を抱えるようにして今はまだ瞼を閉ざし眠っているということ。
"ダークシャドウ"。
創造主であるマスターハンドはそう名付けた。
当初は何を採取されるものかと構えたが自分の血液と影を作り出す微生物『影虫』。それからコピー元の毛髪とデータを組み込ませることでこうも持ち得る能力も何も本物と瓜二つである個体を生み出すことに成功するものだとは。
それぞれの円筒の下部に備え付けられている機器のディスプレイにはその個体の名前と細かなデータやグラフが表示されている。こいつらを創造の力で作り出すのではなく一から生み出すことに拘ったのは研究者の鑑というか。
感心することではないな。
奴らは"人型兵器"を誕生させたのだから。
「ん」
瞼が疼いた気がする。
確かめるべく足を止めて歩み寄る。
「……はぁ」
気味の悪いことだ。
肌は褐色と髪は黒または白の両極端。
薄く開けた瞼から僅かに覗く紅。
嗚呼。瓜二つなのは。