零の世界
霧のような雨が静かに降り注ぐ。
「……おや」
扉を開いた音は雨音に掻き消されて。
「お父さんは?」
穏やかな口調で訊ねるその人は。
「お母さんは?」
不完全で欠けている。
「……君の名前は?」
四年の歳月を経ても尚変わらない肉体。これも神力を得た特典のようなものか──翳した掌を見つめて思う。どんな姿だったところで住めば都といった言葉があるようにいつかは慣れるのだろうがやはり人の姿の方がよく馴染む。
どれだけ長い時を過ごしたところでこの身体も力も衰えはしないのだろうが。
……それでも。
忘れるわけにはいかない。
僕たちは。まだ"完成"するわけには。
「──ッッ!」
打ち出された衝撃波を咄嗟に張り出した障壁が防いだ。物思いに耽ってる場合ではないなと小さく息をついて顔を上げてみれば実験体の少年少女が転がり伏せている。
「……あーあ」
足で蹴ってみたが正気は見られない。
「また、壊れちゃった」