零の世界
「上出来だな」
マスターは呟いた。
「え、兄さんが創ったの?」
「他に誰が創るんだ」
それを言われてしまうと返せない。しかし自分たちはあの戦いで神力を酷く消耗した上にそこそこに長い間眠っていたお陰でブランクがあるものだと思っていたのだが。
「……さて」
どうやら兄には然程関係がなかった様子。
「クレイジー」
「なに?」
「俺たちに出来ないことは何だと思う?」
また突拍子もない質問を。
「兄さんは何でも創れるし僕は何でも壊せる。出来ないことなんてないんじゃない?」
「頼もしい限りだな」
マスターは笑って、歩き出した。
「何が言いたいんだよ」
クレイジーは短く息を吐いて隣に並ぶ。
「例えば特別気に入った玩具があったとする。けれど不備があった。どうする?」
すかさず答えようとして口を噤んだ。
「直ぐに壊したくはないだろう? 気に入っていたのなら尚更だ。であれば創り直すのが最善と思えるだろうが必ずしもそうとは言えない」
靴音が響く。
「結局のところ俺のこの能力は常に新しい物を創造するだけであって、性質や姿形共に瓜二つだろうとコピーでありオリジナルではないのが事実。故に創り出したところで気に入っていた玩具とは異なった単なる模造品でしかない」
程なくして辿り着いた先。
「……もし」
満たされた透明な液体の揺蕩う円筒。
「その不備だけを無かったことに出来たなら」
ゆっくりと見上げて。
「"零"に出来たのだとしたら──?」