零の世界



「……兄さん」

靴音が響く。

「本当に任せてよかったの?」


ダークリンクに仕事を命じた後でクレイジーはマスターが赴くままに通路を歩いていた。

「お前は用心深いな」
「信用できる相手じゃないだろ」
「あれに信頼を置いているつもりはない」

不満そうな視線を投げかけられるも構わずに。

「ただその点においては無用な心配だ。あれは孤独を取り払えるのであれば忠実に尽くす」

ふぅん、と呟いて。

「ところで兄さん何処に行くの?」

暫く歩いているが向かう先はどうやら自室ではないようだった。今が何時なのか把握できない以上そろそろ部屋に戻って寝たいなどといった我が儘はまさか言いはしないが目的も告げずに歩くだけでは痺れを切らせてしまう。

「此処だな」

と。マスターが足を止めた。

辿り着いたのは両開きの扉の前。こんな部屋があっただろうかとじっと見つめて記憶を探っている内にマスターは扉を開くとその先へ。

「ちょっと兄さん、」

クレイジーは急いで後を追いかけた。


「……うわ」

視界に飛び込んできたのは──大ホール。

ただただ広く最奥には特別目立つ大きな円筒が静かに佇んでいる。床も壁も天井も灰より白の色が近しく。また理解し難い機械やモニターが設置されている辺り此処は何か実験を行う為に作られた部屋ということなのだろうか……?
 
 
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