零の世界



扉を開いて迎えたその景色に事が事だというのに暫し見惚れた。


……やっぱり。

ここは。あの時の僕たちの部屋だ。


中央奥にあるベッドに向かってゆっくり足を進めて辿り着く。それから一度兄を床に下ろしてベッドに凭れ掛からせるとその隙に布団を大きく捲った。

……、膝をついて兄を肩に担ぎベッドの上に寝かせる。そうして風邪を召さないよう布団を引き上げればひと段落。

本当に小さく息を吐いた。


疲労はしているはずなのに何故か眠気はなかった。消費したのが体力ではなく自分たちのこの人間の姿形を構築している神なる力の方だからだろう。

ベッドの縁に腰を下ろし眠っている兄の髪に触れながら。自らの手で左目を抉り出し左腕を切り落とした兄を想う。この体が破壊神の魂にこんなにも馴染むのは兄の愛あってこそだと。

「……兄さん」

安らかな寝息が寂しくも愛おしい。


今は休ませてあげないと。


静かに立ち上がる。軋む音にも靴音にも目を覚まさない兄を振り向いて。……
 
 
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