零の世界



暫しの沈黙を経て。

「馬鹿馬鹿しい」

ダークリンクはそう吐き捨てた。

「選択の権利はともかく断る権利まではくれてないっつーオチだろうが」
「ほう。考えられるだけの頭はあるようだな」

マスターが笑うとダークリンクは案の定きっと睨み付けたがそれ以上は言わなかった。

「交渉成立、と捉えても?」

反抗の意を示したところで前述の通りあらゆる手を使って最終的に従わせるだけなのだろう。魔王でも勇者でもない自分に話を持ち掛けたということは双子の語る理想の世界、及び計画を遂行する為には現時点では自分しか持ち得ない特殊な能力が必要不可欠であるということ。

「……くく」

ダークリンクは不敵な笑みをこぼす。

「上等じゃねえか神サマよォ? こちとらいい加減退屈なんざ飽き飽きとしてたところだ」

紅の双眸が疼く。

「駒にも影にも慣れきった。このカラダ好きに使ってくれるがいいさ。但し破談だけはさせてくれるなよ。二度も三度も言う義理なぞねえ。俺は餓鬼の次に退屈が嫌いなんだからよォ?」


嗤う、勇者の影に。

双子は密かに視線を交える。


「さぁて情報共有といこうじゃねえか神サマ。流石に独り占めってワケにはいかねえぜ?」
「せっかちなことだな」
「それはいいんだけどさ」

クレイジーは不服そうな面持ちで。

「その"神様"ってのやめてくれない?」
「間違っちゃいねえだろうがよ」
「ひと括りにするなって言ってんの」

……。これだから餓鬼は。

「あー」

ダークリンクは心底怠そうに後頭部を掻いて。

「マスター様。クレイジー様」
「あ、それいいかも」

クレイジーはマスターを振り返る。

「ねっ?」
「及第点といったところだな」

それ以上もそれ以下も大して変わらないだろうに。細かな拘りを思わぬタイミングで突き付けられてダークリンクは密かに息を吐いた。……
 
 
39/54ページ
スキ