零の世界



成人した男性が一人は余裕で収まるであろう大きさのある水色の液体が満たされた円筒。その中に生き物が収められるとして、管理するべく備え付けられた可能性が最も高い謎の機器──

「趣味の悪りィこったな」

訊くより早く野次が飛んできた。

「口には気を付けろよ紛い物の分際で」
「クレイジー」

睨みを利かせる弟に制止を促すべく、ひと声。

「変わりのないようで」
「創造神サマも相変わらず」

言わずと知れた勇者の影。彼のハイラル王国を際限のない恐怖と闇に陥れた魔王の駒──


ダークリンク。


「掌返しもイイところじゃねえか。なあ? てめえ様に紛い物ガラクタなんざ不要だろぉによ」

実に数ヶ月ぶりの再会となるが虫の居所が悪いのも無理もない。曰く双子の望む世界とは彼の望む世界と合致しないのだ。故に最後の戦いとなったあの日協力関係を断ち切って敵対したが何がどうやら彼はこの場所に居る。

「必要、だと言っているんだ」

ぴくりと尖った耳が小さく反応を示した。

「確かに我々の望む世界とはお前の言う欲望に塗れた人間が争い求める戦乱の世とは異なる。しかし──人間は逆らうだろう。であればその完成に導かれるまでの期間。長く険しい戦いであればあるほど世界はお前が渇望した色に深く染め上げられる──そう思わないか?」

言葉の上手いことだ。奴の性質をよく理解している。傍らで話を聞いているだけのクレイジーだったが巧みな言い回しに思わず成る程と声に出してしまうところだった。

「戯れ言を」

呟いて睨みを利かせるダークリンクにくく、とマスターは意味深に笑みをこぼす。

「創造神と破壊神が魔王の駒であり勇者の影であるお前に、いや。それでしかなかったお前に選択の権利を差し出しているんだ。淡々とした平凡な日常を抜け出すにはまさしく千載一遇。天秤にかけるまでもないだろう──?」
 
 
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