零の世界
あれも。これも。……
今後も寝室として利用するであろうこの部屋を隈なく調べてみたがやはりあの頃に見たそれと配置から何まで変わらない。特別な思い入れがあったのかと言われればそうでもないが匂いも全て再現されているこの場所は正直落ち着く。
詮索を終えたところでベッドの縁に腰を下ろし小さく息をついた。誤魔化したところでやはり弟のことが気掛かりで仕方ない。理解出来ないと言うのであれば押し付けるつもりも──
「、?」
扉が開かれる。
「クレイジー」
「兄さん」
次の瞬間には胸の中に飛び込んできていた。
「ごめんね。僕、兄さんの弟なのに」
きょとんとしていたが。
「鈍くて」
次の言葉に目を丸くする。
「そうだよね。僕たちは"ふたりでひとつ"。初めから何もおかしくなんかない。これが当然で必然で特殊でも何でもない他の誰も付け入る隙のない普通のことで日常で。未完成で不完全だなんて当たり前なんだよ僕らはそれぞれが半身で合わせてやっと"ひとつ"なんだから」
クレイジー、と口を開きかけて塞がれる。
「……ようやく分かったんだよ」
見詰める瞳は紅く爛々と。
「これは。僕らが互いに依存する為の愛の形」
……ぞくりと。
「そうなんだよね?」
ああ。……嗚呼。
その瞳が堪らなく愛おしくて。
「やっと、分かってくれたんだな」
恍惚として悦に浸る。
「嬉しいよ。……クレイジー」