零の世界



いつの間に。とも思ったが手にしていた書物の表紙を見て気が付く。その表紙の文字は煤けているが辛うじて重要資料とだけ読めた。

此れは間違いなくプロジェクトに関わった被検体のデータを記したものだろう。

ぱらぱらと捲ってみると案の定被検体である少年少女の写真と同じページに詳細的なデータが記されていた。精密検査による能力をグラフに表したものから個々の特徴、好きなもの嫌いなもの、得意なもの不得意なものまで。

こうも詳細的だと自分たちが如何に実験動物として隅々まで監視されていたかが分かるようで気分がよろしくない。そのついでで今となっては忌々しい被検番号まで見つけて目を細める。


A-002……


無属性。創造の能力を司る。研究者たちからの期待値は申し分のないAAA+。

並べられた文字と数字を冷めた目で見下して、ふとあることに気付く。

「……兄さん」

思わずぽつりと口に出して言った。

「左利きだったんだ……」
 
 
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