零の世界



かつん、かつん。

通路に靴音が鳴り響く。自分自身体力を使い切ってしまっている上で、脱力した兄の体は思ってた以上に重く感じた。


あいつらが。

兄さんに酷いことをするからだ。


通路を照らす蛍光灯の一つがひび割れて弾けた。途端に自分も頭痛を覚えて一度その場に立ち止まってしまう。


感情を鎮めないと。

力を使うのはよくない……


短く息を吐き出して引き続き歩き出す。建物の内部はあの真っ黒な外観に反して真っ白だった。加えて構造は記憶にまだ色濃く残るあの研究施設に似ている。

見た目だけじゃない。薬品の匂いだとか冷たい空気がそのままで。きっと兄は何処か体を休ませられる場所として咄嗟にあの研究施設を再現したのだろう。


……だとすれば。


エレベーターの扉が開いた。

見覚えのある構造とだけあって迷うはずもない。通路を歩いて程なく辿り着いたこの場所は間違いなく。
 
 
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