零の世界
「はぁああ……」
大きく息を吸って溜め息を吐き出した。
辛気臭いのは自分自身好きではないがこうでもしないと体の中でしつこく渦を巻く感情を外に追い出せないと思ったのだ。とはいえそれも結局は気持ちの問題でつい二度目の溜め息を吐き出しそうになる。それをどうにか小さいものに留めて途端にふわりと鼻を擽った、所謂古書の匂いにゆっくりと顔を上げる。
此処は書庫であるらしい。自分たちに必要な部屋なのかはさておき恐らくは部屋に戻ったであろう兄とこのまま顔を合わせるというのも少々気が引けるので適当に暇を潰すことにする。
こんな場所でさえ何処となく見覚えのあるような作りなのもこの建物がかの研究施設を模したものだからなのか。
靴音響かせて棚に歩み寄る。見上げて背表紙を眺めたが残念なことにどれも興味のそそられる表題ではなかった。かといって他に暇を潰せる手段もないので適当に選んで引っ張り出す。
「げ、」
声を洩らしたが遅かった。
次の瞬間にはまるで雪崩のように、他の書物が巻き込まれて次々と。どたどたと派手な音を立てながら自分も尻餅をついてしまったが兄には聞こえていなかっただろうか。
「っけほ……」
咳き込んで溜め息をつく。いくら何でもこの惨状は理由はどうあれ萎えるものがある。
「うぇ、埃くさ……」