零の世界
嗚呼。口の中が乾く。
以降は他愛のない話を笑い合って繰り広げたが色はなく味気なく互いに心ここに在らず。
「終わったか?」
「あ……」
いつの間にか空になっている皿を一瞥して。
「うん。ご馳走様」
「お粗末さま」
肩を竦めてぎこちなく笑うと兄さんは皿に手を掛けて立ち上がった。
「――! いいよ兄さん僕が片付け、」
「お前は座ってなさい」
やんわりと。それでいてはっきりとした声音で断られてしまいすごすごと座り直すと兄さんは満足げににっこりと笑って。
「っ……」
……やってしまった。
兄さんを相手に容易く騙し通せるなんて当然、思ってはいなかったけどこんなにも早くボロを出すなんて。慰めの言葉も出てこない。
……水の流れる音がする。洗い物をしている兄の目を盗んで右腕にそっと触れた。肘より手前でばっさりと切り落とされたかのように前腕部と右手が存在しない。どんな理由だって兄さんが言うのであれば全て呑み込むつもりだ。
それでも。
「……クレイジー」