零の世界
曰く。久しぶりに体を動かしたおかげでお腹が空いてしまったのだと。
そうは言ってもついさっき食べたばかりだろうと突っ込みたいところだったがそれで体が元の調子を思い出しつつあるのであれば仕方ない。そのために遊んだも同然なのだから。
「兄さんは食べないの?」
視線を受けた弟が食べる手を止めて訊ねる。
「別に腹も空いていないしな」
「はい、あーん」
差し出されたのであれば仕方ない。素直に口を開いて受け入れる。ハンバーグだった。
「美味しい?」
「都会でレストランを開けるな」
「それ自分で言っちゃう?」
そうして互いにくすくすと笑い合ったあと弟は長い息を吐き出して。
「……本当に創造神の力って凄いよね」
フォークでひと口分のハンバーグを刺して、物珍しそうに観察しながら呟く。
「何でも一瞬で本物そっくりのものを目の前で作っちゃうんだからさ」
そう。弟に食事として提供したハンバーグは材料を揃えて一から作ったものではない。必要なものはより詳細的な情報のみ。
弟が語ったように創造の力を使って作業過程もなく一瞬でそれを作り出したのである。
「別に何でもという話じゃないさ」
俺は頬杖をついて語る。
「例えば情報が欠けていればそれだけ完成度は本物から遠退く。逆に百パーセント得ていればそれはただ似て非なるものというだけの話などではなく本物そのものだということだ」
へぇ、と弟は目を丸くしたが直ぐににっこりと愛らしい無邪気な笑みを見せた。
「やっぱり、僕の兄さんは凄いなあ」