零の世界
なにも弟だけに限った話ではない。
自分含めたあの研究施設の被検体の子供全員がひとつの傷も付かないようにして大事にまるで割れ物であるかのように仕舞われていた。
最重要。故に安全は最優先。どれだけ空気の純度が約束されていようとどんな菌があるともしれないのだから研究員が慎重どころか過保護になる気持ちも分からないでもない。それでも、情けか気まぐれか稀に外の世界に触れることを許してもらえたかと思えば一切の前後の狂いもなくきっちり五分で戻される。
自分は外の世界というものに深い拘りがあったわけではなく弟が望むのであればとただ単純に合わせていたのだが弟はそうもいかない。何せ破壊の能力を持つ子供である所以か研究の為と他の子供たちと手合わせをする以外で動けないのはあまりにも窮屈だったのだから。
「……クレイジー」
ひと声呼んで。
「なん、――わぷっ!」
振り向いた弟の顔面に軽く投げつけたのは。
「つ、冷た……っ」
まさか生まれて初めて触れたのが手のひらなどではなく顔面になるとは思うまい。弟は雪玉の冷たさに涙を浮かべて。
「せっかく外に出られたんだ」
そんな弟に自分は意地悪な笑みを浮かべる。
「……少し。遊ぶか」