零の世界
見渡す限りの――白。
容赦なく冷たく肌を刺すこの気温は間違いなく終わりか始まりか冬の季節を示していた。
……嘘……だろう…………?
我が目を疑ったのは言うまでもない。この世界に深い爪痕を残したあの事件が起きたのは夏の一番暑い時期を過ぎた頃だった。これが北極か南極に立たされているのなら納得はできるが、通り道を抜けた先として指定したのはあの天空大都市レイアーゼにある白夜の森のすぐ近くに広がっている野原。であれば迎えるはずの色というのも緑であるはずだろう。
そうでないということは――まさか自分は二ヶ月近くあの場所で眠っていたということになるのではないか。なにか夢を見ていたような気もするが今となってははっきりと思い出せない。
――神なる力を使ったというだけで?
自分でも思っていた以上に混乱している。
だが確かに自分はこの世界を創ってからも永い間眠っていた。目醒めてからも周囲に対して信用を置けず要らぬ警戒を張っていたお陰か力に頼らないまま数ヶ月と過ぎて……制御も効かないあれ程までに大きな力を使ったのは無謀だったといえる。お茶の席で似た存在に話していればきっと笑われたことだろう。それにしてもふと思いついた例えにしては自分と似た存在なんてぞっとしない話だが――
「……真っ白」
不意に。弟がぽつりと呟いた。