零の世界



……。音が無い。

辺りを見渡せど生き物が存在するような気配もなく、あるとすれば僕と兄さんの二人だけといったところで。初めて足を踏み入れたそこは何処でもいいと叫んでいた僕の心の声を叶えたかの如く。

「、う」

今現在右腕を僕の肩に回して支えている兄が小さく呻いた。

無理はさせたくないが辺りを見渡す限り体を休ませられそうな建物はなにひとつ見当たらない。

「兄さん」

と。不意に頭を重くもたげたかと思うと肩に回していた右腕がするりと抜けた。それでも支えとして暫く自分の肩に手を置いていたが数度呼吸を繰り返したのち右手をそっと前方、何もない空間に向かって伸ばすのを釣られて見遣る。


程なく。兄の右目に蒼い光が灯った。


「っ……!」

するとどうだろう。

この世界全体が大きく揺られ、やがて地面から真っ黒な建物が聳り立ったのだ。

恐らくも何もこれは兄の創造神としての能力によるものだろう。暫し呆気にとられて建物を見上げていると視界の端に捉えていたはずの兄の体がふっと力を失うようにして地面に崩れ落ちた。ぎくりとして振り向くと倒れてしまっている。

「兄さん!」

慌てて駆けつけて膝をつく。体を揺すりながら呼びかけるが反応はない。

「兄さん!」
 
 
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