零の世界
……さて。自分だってこれから能力を使うのに早々に加減を誤り在ろう事か弟の目の前で醜態を晒すわけにはいかない。
す、と目線を上げて虚空を視界に捉えて程なく変化は訪れた。
要望に応えるように白い光が下から上へ縦に一線引いたが左右に分岐し緩い曲線を描いて真っ直ぐと地面に下りる。そうして最後は同時に始点を繋ぐと線を引かれた内側を塗り潰すように強い光が溢れ出しやがて赤い扉が現れたのだ。
「凝った演出だね」
「エンターテイナーだからな」
扉が開く。
「そうだっけ?」
外の世界へと繋ぐだけの通り道は群青色に紫を練り混ぜたような景色が広がっていて。
「ああ。そうだとも」
凡そ弟に見せるものでもない深い笑みを口元に浮かべてはっきりと言葉を紡ぐ。
「俺は“マスターハンド”だからな」
通り道を抜けるのは早かった。
次の瞬間には冷たい空気が肌に触れて――
「うわぁ……っ」
俺たちは。
一面の銀世界を前にしていた。