零の世界
「クレイジー」
食事を終えて向き直る。
「出かけようか」
「何処に?」
「外の世界さ」
アバウトだなぁと言いたげに弟が眉を顰めた。実際問題そうなのだがこればかりは先延ばしにしてはいられない。
じっと此処に留まっていたところであの時からどれだけの時間が経っているのか分からないし、自分自身把握していないものを創ることはできない。
……早い話がこの建物の何処にも時計がなかったのである。
「別にいいけど」
「嫌なのか?」
そう訊ねると弟は口籠もった。……この世界の主であるはずの自分たちが望んだ全てを否定されたのだ。例え最愛の兄が許そうと認めきれないのが本音だろう。
「行くぞ」
それでも連れ出さないわけにはいかないので席を立つと、弟は不貞腐れたような面持ちで続けて立ち上がった。
「洗わなくていいの?」
「お前の力で処分しておいてくれ」
「力の使い方間違ってるよね」
決して怠惰ではないのだがこれには返す言葉もないので少し考えて。
「……家政婦でも雇うか」