零の世界



じゅうじゅうと焼ける音。フライパンの柄を持って焦がさないように軽く揺すり程よく熱を通していく。

「ほ、本当に大丈夫?」

心配そうに声をあげる弟に。

「いいから。もう少し待っていろ」


食卓に向き合うようにして置かれた皿の上にはオムライス。これが昼食であるか晩飯であるかは知れないが長く空白だったであろう腹を満たしてやらないことにはいくら神様とて一日が始まらない。

「兄さんって料理できたんだ」
「見様見真似だ。味は保証しない」

椅子を引いて席につく。

「食べてみていい?」
「どうぞ」
「いただきます……っ」

弟は左手にスプーンを持つと早速端から掬って口へ運んだ。一切気にしてない素振りを見せるつもりがやはり気になってしまいじっと見つめていると。

「……美味しい!」

ほっと息つく感想だった。

「やっぱり僕の兄さんは料理の腕も天才だね!」
「オムライスくらい簡単だろう」
「今度は僕が作ってあげる!」
「期待しておくよ」

……この期待が後に華々しく裏切られることになろうとはこの時の自分は想像もしていなかっただろうな。
 
 
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