零の世界



終始無言。歩を進める靴音も扉の閉まる音も妙に響いて煩わしく。

兄の眠るベッドにゆっくりと歩み寄って縁に腰を下ろす。安眠を約束されたそのひとは寝息を立てて無防備に。白い頬に指先から触れて沈んだ声で小さく呟く。

「……兄さん」


これから、どうするつもりだろう。


兄さんにとってこの世界は。

僕が思っていた以上に……愛おしくて。


壊すことしかできない僕には。

どうすることも。


これ以上。兄さんを苦しませたくない。

世界を壊すことが不正解なら今の僕には何も出来ないのだろう。

靴を脱いで兄の隣に潜り込む。確かな温もりはそこにあるのに何故か遠く感じてしまう例えようのない切ない感覚に胸を締め付けられながら。

「兄さん……」

そっと指を絡ませて繋ぐ。


今は。

早く兄さんが目覚めますように……
 
 
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