零の世界




分かり合えっこない。

人間なんかに理解できるはずがない。


逃げなきゃ。


「はっ……はっ……」

浅く呼吸を弾ませながら残り滓のような力で瞳を紅く瞬かせて空間を裂く。何処でもいい。誰にも見つからないならどれだけ暗くても寂しくても。


兄さんとなら。


ようやく開いたその先へ兄を引きずるようにして足を踏み入れる。幸いなことに空間は僕たちが抜けたと同時に口を閉じそれまで聞こえていた音を遮断した。

「は……」

小さく息を吐いて辺りを見回す。

全体的に薄暗いその世界には昼夜を示す太陽や月が存在しない。どんよりとした紫色の空が何処までも広がっていて光を差すことはなく。地面は存在するが薄い赤紫色の霧が地面を覆っている。


穴があれば気付かない。

落ちればきっと、果てもなく。


「ここは」

呆気にとられて思わず声に出した。

「何処なんだ……?」
 
 
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