偽りの天使
逃げなきゃ。
「はあっ」
急いで、早くしないと。
――ボクの羽根が。
たんたんと床を踏む靴音が鳴り響く。垂れた鮮血が生々しく点々と跡を残そうが、構うものか。今は出来るだけ。さっき居た場所より、早く。遠くへ。
「っ、あ」
最寄りの扉が開かれた。よろめきながら飛び出した青年の姿は何処か見覚えが。
「……ピット?」
あるような、気がしたけれど。
「ぁ」
小さく声を洩らして後退。
「お前、その羽根」
――邪魔になるからな。
「来るなっ!」
感情が高ぶる。
「持ってない奴に何が分かる!」
不自然に差した影のお陰で顔が窺えない。
青年はたじろぐ。
「ピット?」