霧雨の視界
その青年は最後ぴくっと肩を跳ねさせて、それからゆっくりと顔を上げた。
……酷く泣き腫らした顔だった。
「ゆ、っ」
名前を呼ぼうとして言葉にならず、しゃくり、腰に抱きつく。
普段なら突き飛ばしてやるところだろうがそんな気も起きない。何だか悪い夢から覚めたようなそんな感覚で驚くほど冷静な自分がいる。肩を震わせて泣くそいつの頭を遠慮がちといった風でもなく撫でながら窓の外へと目を移して。
いつになったら晴れるだろう、なんて考えながら。
「どう、し」
……訊かれるだろうとは思っていた。
どうして助けたのか、ではない。そもそも自身が生きる為に戦っていたのだから、今更噛み付くような物言いは彼に限ってしないだろう。
「……未来は変えられない」
少しの間を置いてぽつりと口を開いた。
「だから敢えて従う選択をとった」
そいつは、……リオンは怪訝そうな顔をした。
「そうするしかなかったから」
奇跡を信じた?
まさか。あの男のような博打が私は単純に苦手だ。
……じゃあどうして?
「急所は、外しておいた」
おもむろに体を起こしたリオンが自身の衣服の上から胸の中央にそっと触れた。
「種族によって治癒速度は異なる。だから」
……彼の胸部には恐らく包帯が巻かれているだろうが、その下では既に著しい回復を見せていることだろう。それは腹部を負傷した自分も同じ。