霧雨の視界
「っ、ち」
腕を引いたが刹那、波導を纏った拳が襲いかかる。
薄く張った程度のバリアでは突破され、結果として構えた左腕に重く与えられた。ごきゃ、と気持ちの悪い音が腕を伝って体中に響き渡り、強烈な痛みが走る。直撃を許せばどうなるかは悟っていたがそれにしては防壁が甘かった。
踏み込まれる前に後ろに体重を乗せ、傾きつつ蹴り上げるが躱された。その姿勢から後転に変えて後方へ距離を取るが地を蹴り出したリオンは――速い。
拳を引いたのが見えてユウは瞳を金色に瞬かせる。ふっと消えたが背後へ、
「ッか」
――読まれた。上手く躱したつもりが振り向きざまに蹴りを繰り出され、避けることはもちろん防御さえ許されず、飛ばされる。
地面を転がり跳ねる、その間に差した藍色の影。先読んで踵落としを仕掛けてきたのだ。次に背中が地面に触れようとしたその間際に再び姿を消して空中へ移るが、当然リオンも追って地に強く踏み込んで蹴り出し、跳び上がる。
「……速いね」
打ち込まれるその寸前で姿を消して躱し、仰け反り、返し、繰り返し。
ルーティだけでなく。これだけの騒ぎとだけあって殆どのメンバーが屋敷から出て戦いを見守っていたのだ。隣に立ってリンクは腕を組む。
「先程と比べて双方共に速度が落ちています」
ぼんやりとした霧雨の中を青の光と紫の光が絶え間なく交える。
「……だから、多分――」