霧雨の視界



手渡されたタオルでそう急ぐ様子もなく付着した水滴を拭いながら、ソファーに腰を下ろしたユウはぼうっと視線を落としていた。ぽつり、ぽつりと雫が滴る。

――はあ? バッカじゃねーの?

生意気な少年の声がまだ鮮明に脳内に響いて。


「次、いつ目を覚ますかも分からねえ化け物を室内に入れろって?」

イーシスは呆れたように吐き捨てる。

「自殺行為だから」

そう言われたところでピチカやディディーも簡単には納得がいかなかった。

何せ、あの霧雨の景色の中にリオンを置いてこいと言うのだ。風邪を引くかもしれないなんて子供の単純な発想だろうが、如何なる状況であれ放ってはおけない。

「おい」

ディディーは酷く顔を顰めた。

「さっきから聞いてれば自分の兄貴を化け物だなんだ」
「ああなったが最後、元には戻らねえよ」

誰もが注目する頃にはイーシスも歩き出していた。


――あれはもう兄貴じゃない。


「何か、考え事でも」

はっと顔を上げる。

「……いえ」


どうでもいいはずなんだ。

なのに。もやもやとしている。この不快感はなんだ――?
 
 
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