霧雨の視界
頭の中に繰り返し、響く。
聞かなければいいのだと分かっていても、声とは性質が違う。これは自分のような能力者にしか聞こえない、そういった類のものだった。
痛い。痛い。
胸が頭がずきずきとずきずきと突き刺すように。
過ぎ去った出来事だ。気を取られるな、戻ってこいと頭の中でそう言い聞かせながら庇うようにして頭を抱える。手元を離れた傘が地面に転がった。
今にもうずくまりそうな姿勢でふらりふらりと後退、だが遂に立ち止まる。
「可哀想に」
今度は近くからはっきりと。それは人、……いや。
悪魔の声だった。
「持って生まれたそれは決して自身が望んだものではないというのに」
声の主はそう囁いて姿を現す。
「……貴殿が見せたのか」
「あんたが思い出しただけだろぉ?」
ダークルカリオだった。
「俺だって同じ化け物なんだ。あんたの気持ちは痛いほど分かる」
「っ違う! 私は、」
背後に現れた彼はゆっくりと目の前に回り込んで、ずいと顔を近付けた。
「――いい加減にしろよ。本当のことくらい全部お見通しだろうが」